ペンギンの逃亡 [雑感]
主に南半球で暮らすペンギンたちにとって、
北半球の文明社会との遭遇は不幸なものだった。
大航海時代には、
簡単に現地調達できる食糧として重宝された。
世界を一周したマゼラン艦隊も南米大陸南端で、
「丸々太った飛べない鳥」を捕まえ、
5隻の船に積めるだけ積み込んでいた。
その後も、灯火用のペンギン油や、
装飾羽毛を取るため乱獲がくり返された。
今年3月に葛西臨海水族園から、
1羽のフンボルトペンギンが逃走した。
逃げたペンギンは東京湾で目撃情報が相次ぎ、
保護しようとした海保の巡視艇を得意の泳ぎで振り切った。
フンボルトペンギン生息域は寒流洗うペルー、チリ沿岸だが、
日本の気候に十分適応できるという。
とはいえ孤独だろう。
江戸前の魚をたらふく食べたら、
元気に仲間の元に帰っておいで。
「野獣の青春」 [映画]
迷宮のハードボイルド。
鈴木清順の「野獣の青春」は、
宍戸錠主演のクライム・アクションだ。
連れ込み宿で男と女が死んでいた。
男は現職の刑事だった。
数日後、盛り場のチンピラたちをやっつけてまわる、
カッコいい風来坊が現われた。
たちまち、ジョーというその男は、
野本組の用心棒におさまりのし歩いたから、
野本組と睨み合っている三光組をひどく刺激した。
野本組には麻薬につながるコールガールの大がかりな組織があり、
それを操る謎の支配者がいるらしい。
アヴァンギャルドな清順美学が横溢する。
ガラス張りのクラブや床。スクリーン越しの事務所。
黄色い荒野。プラモデルだらけの部屋。
そこは、ボス、殺し屋、情婦に至るまで、
異様で個性的な人物が、仕掛けと装飾に満ちた、
奇妙な空間に閉じ込められている悪夢的な世界だ。
男が迷宮から逃亡するとき、
モノクロームの中に潜む紅が滲むのである。
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沖縄の不条理 [雑感]
動かぬ基地、変わらぬ不平等。
1972年5月15日に本土復帰を果たした、
沖縄の40年を一言で表すとこう表現できるだろう。
米軍関係者が基地に逃げ込めば、
すぐには逮捕されない「不逮捕特権」を含む日米地位協定をはじめ、
全国の米軍専用施設の約74%が集中する沖縄には、
本土ではあり得ないような「不条理」がいくつもある。
沖縄では米軍がらみの事件事故が毎日のように起きる一方、
公正な捜査に地位協定が壁となって立ちふさがり、
米軍関係者が死亡事故を起こしても、
日本側の裁判権が及ばないケースがある。
政府は基地の縮小に取り組むと同時に、
基地があるがゆえの「不条理」の一つ一つに真剣に向き合うべきだ。
岡本太郎の迷宮 [Art]
川崎市岡本太郎美術館へ行く。
迷宮は自然の中にあるのではなく、
我々の暮らす日常や、
複雑怪奇になった社会システムの中に、
その迷宮は在る。
岡本太郎が表現したかったのは、
人間の生業そのものがカオスであり、
出口のない迷宮であるということだ。
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「猿の惑星:創世記」 [映画]
静かなる反乱。
ルパート・ワイアットの「猿の惑星:創世記」は、
SF映画の金字塔シリーズの前章編である。
アルツハイマーの薬を研究しているウィルは、
チンパンジーに新薬を投与する。
目覚ましい知能の伸びを見せたメスのチンパンジーがいたが、
彼女は暴れだし、射殺されてしまう。
妊娠していた彼女が産み落とした赤ん坊チンパンジーを
ウィルはシーザーと名付け、彼に高い知能があることに気付く。
アルツハイマーを患うウィルの父親が、
隣人ともめているのを見たシーザーは、
彼を守ろうと暴れ、霊長類保護施設に入れられてしまう。
知恵と復讐心が結びつくと動物は強くなる。
悲しみをたたえていた眼が、不敵な光を宿しはじめる。
「猿の惑星」の原作は、第二次大戦で日本軍の捕虜になった
作者の体験をベースとしているのは有名な話だ。
この作品では「スパルタカス」や「ベン・ハー」
そして虐げられたネイティブ・アメリカンなど、
多様な人種差別や、捕虜解放のメタファーとなっている。
貧乏で不幸だが頭のよい少年をいじめてはいけない。
監禁されて不幸だが頭のよい猿をいじめてもいけない。
映画では、少年も猿も、かならず逆襲するのである。
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善人と悪人 [雑感]
鋳型に入れたような悪人は
世の中にあるはずがありませんよ。
平生はみんな善人なんです。
少なくともみんなふつうの人間なんです。
夏目漱石の「こころ」の中で、
「私」が「先生」にこう忠告される。
さらに「先生」は、
いざというまぎわに、
急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。
だから油断ができないんです。
と、言う。
本当は「善人」なのか、
それともやはり「悪人」なのか、
区別ができない場合も少なくない。
一般に裁判とは、証拠などを通じて、
被告となった人が有罪かどうか、そして、
有罪とされた場合はどのような刑がふさわしいのかを決める。
「私」が「先生」の忠告に対し、
「一体どんな場合を指すのか」と問う。
それに対して「先生」は、
金さ君。金を見るとどんな君子でもすぐ悪人になるのさ。
と、答えている。
もちろん「先生」の言っていることが、
いつもだれにでも当てはまるわけではない。
指定弁護士の控訴で小沢一郎の無罪は確定しなかった。
「政治とカネ」裁判の舞台は今後、東京高裁に移る。
とらえる努力 [雑感]
福岡市の男性の手元に先日、
母親が33年前に出した手紙が宛先不明で舞い戻った。
長い年月、どこをさまよっていたのか。
切手と消印は確かに1979年当時のものだ。
原因は調べてみたものの「分からない」。
誰かが自分宛てでない封筒の存在に気づき、
ポストに再投函したという説もある。
母親は7年前に亡くなっている。
『忘れないで』という母からのメッセージかもと、
男性は喜んでいると聞く。
母が娘に死を知らせに来た。
「死ぬ時は足の痛みを持っていく」と言っていた
義母が亡くなると、足の痛みが消えた。
戦死した叔父が会いに来た。
女の子が神隠しに遭った。
あの世からのことづてや、異界からのサインは、
現代においても生きているのである。
昨年の長野県北部地震の直後、
飯山市の6体の地蔵がそろって栄村の方に向きを変えた。
錯覚や偶然、あるいは人為的な原因なのか。
現代に生きる我々は、知性によって、
とらえられたものを絶対視して生きている。
その結果、知性を介するととらえられなくなってしまうものを、
つかむことが苦手になっているのかもしれない。
知恵深い先人からのサインを、
我々はとらえる努力をしなければならない。
生涯未婚率の事情 [雑感]
名探偵エルキュール・ポワロが、
友人のヘイスティングス大尉に未婚を通す理由を問われて、言う。
「私はこれまで、妻が夫に殺された事件を5回手掛けた」。
さらに「22人の夫が妻に殺害されている」と。
アガサ・クリスティの「二重の手がかり」のワンシーンである。
ポワロの冗談は受け流せても、
哲学者ソクラテスの答えは真に迫って、そうもいかない。
結婚した方がいいか、しない方がいいか訊ねられ、
「どちらにしても、君は後悔するだろう」。
ソクラテスの妻は悪妻と伝えられており、
連れ添った女性が性悪なら哲学者になれると説いて、
結婚を勧めた言葉なら、よく知られている。
昨今は、未婚でいる訳も切実かつ厳しい。
ソクラテスの生きた昔が牧歌的にさえ映る。
50歳の男性のおおよそ5人に1人、
女性の10人に1人が結婚したことのない時代になった。
「おカネがない」との返答がかなりを占めたらしい。
生涯未婚率の増加をもたらした事情はどこにあるのか。
この分野は名探偵や哲学者の専門外だ。
解き明かし、手を打つ責任は政府にある。
「ホーボー・ウィズ・ショットガン」 [映画]
奴らをぶち殺せ。
ジェイソン・アイズナーの、
「ホーボー・ウィズ・ショットガン」は、
ルトガー・ハウアー主演のエクスプロイテーション映画だ。
列車で町から町へとさすらう初老のホーボー=流れ者。
仕事を求めて降り立った町は、暴力に支配された場所だった。
犯罪組織のボス・ドレイクが町を牛耳り、
その息子たちが殺戮を繰り返しているにも関わらず、
警察も住民も見て見ぬふりだ。
ホーボーは娼婦のアビーを誘拐しようとした、
ドレイクの息子を警察に突き出すものの、
逆にナイフで胸を切り刻まれてしまう。
エクスプロイテーション映画とは、
もっぱら金銭的利益のために同時代の、
社会問題や話題を映画の題材に利用したり、
ヒットした主流映画の比較的わいせつな面に乗じたりするなど、
センセーショナルな側面を持つ映画のことである。
Exploitation=「搾取」として、
観客から金を巻き上げるための映画という含意がある。
クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲスによる、
「グラインド・ハウス」のフェイク予告編コンテストグランプリ受賞作を、
ジェイソン・アイズナー監督が自ら映画化したゲテモノである。
阿鼻叫喚の血まみれシーンと、
5分に一度のショック描写の連続。
映画はもともとは「見世物」であったことを、
改めて思い出させてくれる怪作である。
原発ゼロの日 [雑感]
1970年の運転開始から42年を経て、
5月6日、日本の原発が全停止した。
当然であろうが重大な節目に至った。
事故という電力生産に伴うリスク、
電力不足という消費のリスクを鑑みて、
我々は今、何を考えるべきか。
原発の安全性について国民は多くの疑念を抱いている。
不十分な原子力安全規制と電力会社の対応のまずさ、
やらせメールに象徴される行政と電力業界の癒着など、
信頼性を脅かす事象が次々に明るみに出た。
一方で、全ての原発を停止し続けるのは、
現実的でないとの声がある。
安定した市民生活と経済活動の点から、
再稼働はやむを得ないという主張である。
太陽光や風力など再生可能エネルギーへの転換には、
多額の投資と絶対的な時間が不可欠だ。
選択に迫られる中で、今必要なのは、
応分の負担と一層の省エネへの覚悟がいるということだ。
政府には廃炉を含めた原子力政策の再編成と、
国民の合意形成に向けた最大の努力を求めたい。
その上で日本で暮らし続けるための、
「原発ゼロの日」を胸に刻みたい。









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